朝日山塊 八久和川 茶畑沢〜皿淵沢下降
2004年8月7日(土)〜10日(火)

佐田(L、記)、江連、丹野、松崎

[人跡がほとんどない原生ルート。しんどかったけどおもしろかった]

 茶畑沢については84年の宗像氏らと、91年の中川氏らの記録がある。またぶなの会元会員の瀬畑氏も98年に単独で、この沢を下降している。瀬畑さんは「茶畑は難しい。5級くらいか」ということだった。
 この茶畑沢は昔、出合まで進んだところで断念したことがある。今回は6年ぶりの再挑戦だ。
 この沢の高巻きは悪い。ルートを間違えるとさらに厳しくなる。人間の足跡は出合からまもなくで消え、大滝から先は原生の世界になる。グレードは4級上くらい。
8月7日(土)晴れ
 八久和ダム06:20〜カクネ沢左岸台地16:30

 早朝、タクシーで八久和ダム着。中俣Pとともにフタマツ沢出合まで踏跡をたどり、ここから八久和川本流を遡行する。カクネ小屋跡手前から巻き道にはいり、小屋跡でBP。本流は水が少なく、昔飛び込んで越えたところも、今回は楽に徒渉できる。快適。
8月8日(日)晴れ
 出発6:45〜小国沢10:40〜茶畑沢13:30

 長沢出合を過ぎ、小国沢出合まで進んで昼食。昼過ぎに茶畑沢出合に着く。幕場が少ない茶畑沢のことを考えて、今日はここまで。
 大ハグラ滝まで中俣Pを見送ったあと、幕営の準備にとりかかる。丹野さんが1匹釣り上げる。
 ここまでは楽勝だった。明日からがいよいよ、本番。
8月9日(月)晴れ
 出合6:10〜20m大滝下9:00〜同上10:15〜2段15m下10:45〜同上11:40〜核心の6m下13:35〜高巻き後に同じ地点にもどる17:45

 出合にかかる5mの滝は、左のやぶを急登して高巻く。戸立沢を分けた後に、15mの淵。ザイルを張って泳ぐが、最後の2mがどうしても越せず、左の草付きから高巻く。懸垂5mで川床に戻る。
 上戸立沢の先に20m大滝があらわれる。高巻きは左右とも支稜線近くまで追いやられそうだ。
 98年にこの沢を下降した瀬畑さんは、この大滝を途中まで懸垂で降りたものの、ザイルが中段までしか届かず、そこから滝壷に飛び込んだらしい。滝壺の水流の巻き込みから逃れられず、死ぬ思いで水底を思いっきり蹴ったら、やっと水面にでられたと言ってた。
 私たちは、浮石がつまっている右岸のルンゼを登る。ザイルを数回使用。80mほど登って右へトラバースし、懸垂すると滝上に降りられた。
 そのすぐ先で左から支流が入る。迷った末に右を本流と見きわめて、進む。
 2段15mを越えると、さらに2段15m。下段は問題ないが、上段には手がでない。右から登るが、途中でガレのトラバースとなる。沢靴でスタンスをつくり、ダブルアックスでトラバース。しんどい。トップの佐田はそこからさらに登りあがり、後続は横に張られたザイルと上から張られたザイル2本を手がかりにここを越える。下降は懸垂2回、所要時間は約1時間。
 その上に、釜をもつ6m滝がかかる。この滝が、今回の核心部だった。
 高巻くために右から取り付く。トラバースを試みるがかなわず、ひんぱんにザイルを使う。ほとんどが腕力登はんで、疲れる。結局150mほど上へ追い上げられる大高巻きとなり、ここから強引にトラバースに入る。
 けれども傾斜が強く、先がよく見えない。草が生い茂る急斜面を、支点となる潅木をさがしながら、小刻みに9回の懸垂をこなす。ひさびさに両足がたてる地面に着いたと思ったら、何と最初の地点にもどっていた。潅木を探しているうちに、だんだんと下流に寄ってしまったようだ。
 ここでの所要時間は4時間10分。シュリンゲ10本、カラビナ2枚残置。
 滝のすぐ下の草地にタープを張る。幕場としては申し分ない場所だ。
8月10日(火)雨のち晴れ
 6:10滝左壁にとりつき、6:55に断念。右岸高巻き〜高巻き終了8:00〜稜線12:00ここから皿淵沢下降〜林道17:30
 昨日、超えられなかった滝を越すため、左壁に取り付くが悪い。泥に埋まった岩とハーケン2枚とひょろひょろの草を頼りに進み、滝を越そうとトラバースしたら切れ落ちた岩壁となった。ハーケンをうつが、何度も抜け落ちる。仮にここを越えたとしても、後続がここを越えるのはとても大変だろう。ここの突破をあきらめる。
 そろりそろりとだましながらもどり、潅木2本にプルージックをかけて懸垂で下りる。
 最後に残されたルートは、右岸の高巻きのみ。しかし傾斜がきつく、取り付けない。本流を少しもどり、右岸から流れ込む小沢を遡行し、そこから本来の高巻きルートに登りあがる。昨日の徹をふまぬよう、かなり先まで進み、食い込んで入ってきた小さな沢を懸垂で下ったら、やっと例の滝を超えていた。
 上から見下ろせば、件の滝の上にはもう一つ、どうにもならん滝があった。高巻きでこの二つの滝を超えられたのはよかった。
 右岸の高巻きの所要時間1時間。一つの滝の通過に、2日合計で6時間もかかった。
 その先も滝が続く。3m以上のものだけでも20個はある。うち7回程度、ザイルを使用。このうち5m樋状の滝は、松崎さんがたてかけた流木を踏み台にして越えた。
 飽きるほど滝を越えると雪渓が現われ、さらに10個くらい滝を越えると水が消える。急斜面の草付きと潅木帯を超えると、やぶだらけの稜線に着いた。かつての朝日軍道だが、その面影はどこにもない。
 やぶにおおわれた最低鞍部に着き、皿渕沢を下降する。すぐに急斜面のスラブが現われ、懸垂で下りる。その後も懸垂やごぼうを交えて沢を下っていく。
 この皿淵沢は、2時間で下降したと記録にあるが、私たちの足では2時間たっても、まだ半分にも達しない。
 懸垂用の捨て縄が底をつく。そろそろザイルを切って捨て縄を作ろうかと思っていたら、やっと林道に到着した。下降に要した時間は5時間半。感激の下山。
 林道を歩くこと10分で、通りがかった軽トラックに乗せてもらうことができた。運転するおっちゃんは、そのあたりでは有名はマタギだった。
 「茶畑の近くには熊がおる。昔は熊の胆が高く売れたもんだ」
 そのおっちゃんの娘さんが経営する大鳥の民宿に泊めてもらう。新築の瀟洒なペンション風。
 ルートミスや茶畑特有の切れ込んだ滝を突破する苦労はあったけれど、原生林の中の遡行は満足できた。また丹野さんのがんばりと、松崎さんの明るさ、そして江連さんの手際の良さに助けられた。メンバーシップは、これ以上を望むべくもない感じだった。
 これまで17回の合宿を経験したが、今回はその中でも一番楽しく、充実感を味わう。メンバー全員に感謝。

茶畑沢 最初の瀞

茶畑沢 大滝