西上州 ナメネコフォール(アイス)&谷川岳 一ノ倉沢 一・ニノ沢中間稜
2004/3/20〜21
L佐藤(英)、萩原(記)
〜 不幸な出来事 〜
 金曜日の夕刻、川口に集合。天気予報によると、土曜日に小さいながらも南岸低気圧が通過する事になっていた。降雪はないであろうが、視界の利かないことは確実。そして、日曜日の好天も確実。谷川の雪稜には、好条件の中、挑戦したいという二人の思いは当然合致。あらかじめ用意していた代替プランあるアイスクライミングに転進することになった。
 いつもの公園の駐車場で寒い一夜を明かした我々は、内山峠を越え、ナメネコフォールを目指す。林道脇に車を駐車し、先ずはアプローチ。1時間程で到着する筈だったが迷ってしまう。
 「せんぱ〜い!ナメネコの場所はバッチリって言ってたじゃないですか〜!」
 素直に戻ればいいものの、尾根と沢を乗っ越して、強引に行くことにする。バラのヤブ漕ぎ、木に刻まれた熊の爪跡。今、思えば、不幸な出来事が起こる前兆だったような気がする。
 やっとの思いで、到着したナメネコフォール。高さは30mくらいあるのではないだろうか?ちょっと難しいなと感じていた。英明氏、スクリューを10数本持って、滝に取り付く。アイスでのフォールは致命的な怪我に繋がるだけに、ビレイする方もヒヤヒヤしてしまう。氷は固いようで、どうもスクリューがなかなか入っていかない様子。リードする英明氏は難儀している。下段10m登ったところにテラスがあり、一休憩。中段が立っていて核心。フィーフィーレストの時間が長くなる。いつの間にか小雪が舞い始めている。悲壮感が漂う中、核心を越えたのは滝に取り付いて40分後。この根性には頭が下がります。上段は寝ているので、すいすい上がり、ビレイ解除。
 今度は萩原の番である。滝に取り付いてみると、予想以上に立っている。「よくまぁ、リードしたものだ」と感心しながら、フォローで登る。スクリューの回収が大変。フィーフィーを持っていないので、3点支持で体勢を整えながらの回収となる。当然、腕がパンプしていくのは言うまでもない。徐々にバイルの振りが甘くなり、氷に跳ね返されてしまう。ついに氷への刺さりが悪く、フォール。大声を上げて落ちたので、上でビレイしていた英明氏は驚いたみたい。
 ようやく下段を登り終え、テラスで休憩。ここからが核心だ。先ず、スクリューを回収しようとするが、氷に突き刺しておいたバイルを落としてしまう。不幸な事にバイルは滝の内側にぽっかりと空いた漆黒の穴に吸い込まれてしまった。中を覗きこんでも、バイルの姿はない。バイルを失ったクライマーはクライムダウンするしかなかった。
 こうして、今シーズン、最後のアイスクライミングが終わったのでした。氷が溶けたら、バイルを回収しに行かないと。

〜 最高の山行 〜
 上州でアイスクライミングを楽しんだ二人は谷川へと移動する。今宵の宿は床暖房の利いた「ホテル・谷川」。ホテル・谷川は盛況で、山屋達で賑わっていた。
 山屋達が寝静まった頃、我々は起きだし、満天の星空の下、早出出勤。途中立ち寄った登山者センターにはすでに計画書が数枚提出されており、我々以外にも早出出勤している面々がいるようだ。
 1時間程、林道歩きを強いられた後、デブリの堆積する一ノ倉沢に到着する。意外と思われるかもしれないが、一ノ倉沢に来るのは初めてだった。星明りの中の一ノ倉沢は生の躍動を一切感じない死の世界。冷たさだけが支配する所だ、というのが第一印象である。この冷たい世界に身を投じる事に不安を感じながらも、ここを越えれば、もっと違った世界を見る事ができるのではないか?という淡い期待感もあった。
ガチャ類を装着すると、早速、デブリの中を歩き始めるが、とにかく歩きにくい。すぐに一・二ノ沢中間稜の末端に取り付くことにする。中間稜は疎らな樹林の中の急峻な登りから始まり、その後、急峻な雪面が待ち構えていた。雪面には、所々、クレパスが口を開いていて、通過には神経を使わされる。「そろそろザイルを出さないと厳しいだろう」と感じ、英明氏に目を向けると、英明氏も同じ事を考えていたらしい。「ザイルを出そう!」と声をかけてくれる。ここから東尾根まで18ピッチの登攀が始まった。
 9ピッチまでは急峻な潅木帯、草付き、岩稜の登りである。最初の2ピッチで小ピークまで上がる。そして、一度、クライムダウンし、中間稜の岩塔までの長い登りが続く。ここは一ノ沢側を行くと良いであろう。二ノ沢側を登った我々は、厳しい草付きを登らされ、一ノ沢側を登った後続P(東京雪稜会)に追い抜かれる。
 岩塔に立つと、中間稜のハイライトであるナイフリッジが待ち構えている。高度感は抜群、雪の付き方も微妙。緊張感あるピッチが5ピッチ続く。ルートは、UP、DOWNN、右、左と目まぐるしく変化していくので、細かくピッチを切っていく。英明氏がリードした11ピッチ目は、極細リッジを微妙なムーブで通過しなければならず、最もショッパイピッチだった筈だ。そして、萩原がリードした12ピッチ目もかなりショッパイ。両側の切れ落ちたナイフリッジをUP、DOWNしながら、綱渡りのように進まなければならない。信用できるランナーを取れないので、何れも滑落が絶対に許されないところである。
 このナイフリッジを越えると、遥か頭上の東尾根へと、雪壁が延々と続いている。ここはスタンディングアックスビレイで登る。50mザイルを一杯伸ばして、4ピッチかかり、東尾根に合流。ザイルを解いて、踏み固められたトレースを辿る。マチガ沢側には巨大な雪尻が張り出し、一ノ倉沢側には延々と滑り台が続いている。ガイドブック等の写真で紹介される素晴らしい光景が続く。このリッジ歩きも、突然、目前が切れて極細リッジの斜め下降が登場。再びザイルを出し、19ピッチ目となる。やはり下りは恐ろしい。
 行く手を見ると、国境稜線は見えているが、その手前に第一岩峰が立ちはだかっている。雪稜会Pのフォローはテンションをもらいながら、登っている。果たして、我々に登れるのか?岩峰の基部で観察すると、逆層ではあるものの、残置ハーケン、シュリンゲが豊富にあり、登れなくはないという感じだ。しかし、中間稜の長い行程にすっかり満足しきっている2人に登攀意欲は湧かず、素直に巻くことにする。(20ピッチ目)もう、国境稜線は目の前だ!あとは雪壁を一登りするだけである。ザイルを解き、一歩一歩登っていく。大展望の国境稜線に飛び出し、二人は固い握手を交わして、登頂の喜びを分かち合う。取り付きから9時間。ロングルートの雪稜をこなした2人には、十分すぎる程の充実感で満ち溢れていた。と言うよりも、燃え尽きたという感じだ。
 下山は西黒尾根を考えていたが、ロープウェイの甘い誘惑に勝てず、天神尾根を辿る。西黒尾根を下降している雪稜会Pには脱帽である。やはり真の岳人は清く、正しく、西黒尾根を下降するべきだった。

【所感】
@ ナメネコフォール
今シーズンから始めたアイスクライミングも4回目となる。滝の直下からみたナメネコは高度感もあり、厳しいと感じていたが、実際に取り付いてみると、想像以上に厳しかった。最近、「アイスのセンスは無いかも・・・」と少しマイナス思考になっている自分がいる。もう少しモチベーションを高く持つ必要があるのでしょう。何か目標が欲しい!

A 一・ニノ沢中間稜
天候にも、パートナーにも恵まれ、素晴らしい雪稜を満喫することができた。難易度も程よく、今の私の実力にはちょうど良いという感じでした。ただ、英明氏の存在が大きく、少々頼りきっていた感があり、そこが反省点である。しかしながら、勉強する事が多く、大変、実のある山行だったと思う。今はスキル、経験を積み上げる時。早く独り立ちできるように頑張ってみよう。