八ヶ岳 旭岳東稜 雪稜登攀
2004/2/28〜29
L佐藤(英)、佐藤(直)、萩原
2/28(土) 快晴
佐藤(直)記

美しの森07:30 〜出合小屋09:30 〜五段ノ宮(基部)14:30 〜テン場掘削 〜17:00

 11月最後の週末に、雨の北アルプス遠見尾根〜五竜岳を登ったときに「あさひとうりょう登りたい!」ということになり、時期を見定めて、計画が実現した。
 仕事の繁忙期に、金曜夜の出発はツライ。満員電車の中をザックを担いで早めに出勤し、最寄の駅に預けたり、事前に車を出してくださる方に、かさばる道具類を預かっていただいたり工夫するのだが、今回は結局、仕事を早くあがることもできず、出発時間を1時間遅らせていただいた。
 清里に入っても、雪は全くない。道路も木々も乾いている。清里駅のロッジ風の静かな駅舎を前夜の宿とした。待合室は、ガラスで仕切られて個室になっており、暖かく、木のペンチ、木の窓枠が清潔感あって、快適であった。夜も遅いので、軽くお酒を飲んで、睡眠をとった。寝不足の佐藤直は、シュラフに入って、すぐ、眠りに落ちたらしい。
 朝も、目覚ましに鳴らした萩原さんの携帯の音にも全く気がつかず、「おーい、朝だよー。」と声で起こされた。
 清里駅から美しの森まで車を走らせ、駐車場で身支度をして出発、林道に入る。林道に入るとようやく雪が出てきたが、やはり寡雪のようだ。空は真っ青で、雲ひとつない快晴。林道をゆっくり歩きながら、八ヶ岳東面の急峻な嶺嶺をよく観察する。寡雪といえども、やはり山の頂にはしっかり雪がついている。そういえば、東面の雪稜を登るのは、私は今回が初めてであった。西面を見る機会はそれなりにあるが、東面は、あまり見ることがなかった。権現バットレスが黒々と、そして天狗尾根が長大にのびていた。
 出合い小屋に到着。休憩していると、男の人が「中舘さん」と女の人を呼んでいる。
振り返ると、本当に中舘さんであった。挨拶すると、2人パーティで同じく旭東稜に行くという。この週末、旭東稜は大人気で、我々の前に3パーティ?後ろにも3パーティほどが入っていたようだ。
 出合い小屋から歩いてほどなく、旭東稜下部に取り付く。トレースもバッチリあり、雪もしまっているので、歩きやすい。ラッセルにならないので、どんどん進めるはずだが、登りが始まると、自分の調子がいまひとつなのが、よくわかった。とにかく体が重い。足も重い、あがらない。どうしたんだろう...?なんだか、自分の体でないみたいだ...。言うことをきいてくれない重い体で、ふうふう言いながら登っていると、英明さんに「いつもの元気がないね」と言われる。やっぱりオカシイので、こまめに休憩をいれてもらった。
 核心の「五段の宮」に到達するまでには、数箇所の雪壁やトラバース、細いリッジがある。いずれも、慎重にいけばそれほど怖がる必要のない箇所だと思うし、おそらく普段の体調ならば、ホイホイとダブルアックスで登っていたと思うが、自分の体が言うことを聞いてくれないので、お助け紐を出してもらったり、細いリッジでの方向転換(重荷で振られそうで怖い)や、段差でも、ザックを支えてもらったり、ザックを受け取ってもらったり、やたらとお世話をおかけしてしまった。自分でも不思議だった。具合が悪くなると、普段大丈夫そうなところでも、怖くなるのだ。でも、英明さんや萩原さんは、面倒がらずに慎重に対応してくださった。「ゆっくりでいいよ、ゆっくりで。」と。ありがたい。
 結局初日は、体調は悪くなる一方で、「五段の宮」に到着した頃には、私はげっそりしていた。「どうしよう、登り切れるだろうか...核心に取り付くには、あまりにも調子が悪すぎる。自信がない。核心に取り付くどころか、下りたほうがよいのではないか...(と私は真剣にこの時考えていた。)」翌日は天気が崩れることが分かっていたので、本当は、初日中に核心を抜けたかったのだが、英明リーダーは顔色の悪い私を見て、今日の行動は、「五段の宮」を目前に、ここまでとし、一晩休んで調子を整えることにしてくださった。
 「五段の宮」基部には細い雪のリッジが伸びていているのだが、どうも向こう側がスッパリ切れ落ちていて、テントを張るには恐ろしい。我々は、少々下って、雪崩の避けられそうな斜面を切り出して、今宵の宿とした。私は立っているのもしんどくなってきて、英明さんと萩原さんが2時間かけて、テン場を作ってくださるのを、ぼぉーっと眺めていた。トイレも私専用のを作ってくださり、急斜面なので、テント本体も立派な木にロープで固定し、テント周りとトイレにもロープをフィックスして、安全を確保した。
 だんだんと日が落ちてくる頃にも、まだ「五段の宮」に取り付いている様子が見える。中舘さんも空身でリードしている。どのパーティもけっこう時間がかかってる様子。結局、われわれを含めて3パーティが、核心を翌日に持ち越した。
 ふと振り返ると、富士山が夕焼けに美しく映えていた。甲府盆地の夜景と満天の星空を満喫できる、眺めの好い贅沢なテン場であった。
 テントに入ると私は少し落ち着いてきて、食欲はわりとあったので、大丈夫かもしれない、と感じた。異常に水分が欲しかったので、お茶をガブガブ飲ませてもらった。軽量化しようと、3シーズンシュラフを持ってきていたのだが、心配した萩原さんが、羽毛服を貸してくださった。私は寒さ知らずで、またまたぐっすり、朝まで一度も目を覚ますことなく、夜中の天候悪化に伴う強風にも全く気づかず熟睡した。
2/29(日) 雪のち吹雪
萩原 記

五段ノ宮(基部)06:30 〜旭岳12:30 〜ツルネ13:30 〜出合小屋15:00 〜美しの森16:30

 3時半、起床。「五段の宮」の基部には、我々を含め、3Pが幕営していた。何としても、一番で岩に取り付きたいと、準備を急ぐ。起きた時、高曇りだった天候も、出発する頃には雪が降り始め、予報通り、天候の崩れが始まった。 
 他Pがテント撤収に入る頃、五段の宮に取り付く。英明さんのご好意(英明は恐くて登れません!)萩原がリードでいく。下から見た岩場はそれほど難しくないと感じたが、実際に取り付いてみると、悪い。岩は冷たく、指先の感覚がなくなってくる。果たして、重荷を担いだ自重を支える事ができるのか?ちょっと不安だ。10回登ったら、1回は落ちてしまうかもしれないという感じだ。そこで、一度、クライムダウン。ザックをおき、空身で登る。後でザックを回収しなければならないが、仕方あるまい。一段目の岩場は残置のハーケンが下部にしかない。上部に立派なダケカンバがあるが、そこまで上がる前のワンムーブに、もう一つ、プロテクションが欲しい所だ。ここで落ちたら、グランドフォールする可能性があり、絶対に落ちる訳にはいかない。ガイドブックによると、4級との事だが、今の萩原の実力では精一杯のところであろう。もっと登攀能力を磨かなくては!
 二段目はチムニー状の岩場。チムニーの右側から一段上がり、そこからチムニー内部へと入っていく。左足のスタンスが決まらず、難しい。右手ホールドも甘い。左手に安定した潅木のホールドがあると思ったら、つららだった。危ない、危ない。絶妙なバランス感覚で登るしかない。我ながら、よくリードしたという感じだ。本来、ここで、ピッチを切るべきだが、戦闘体制に入った萩原は3段目にも取り付いてしまう。3段目は直上せず、上ノ権現沢側を巻くように登る。気持ちの良いルートではない。ホールドとなる潅木が良さそうに見えて、信用できないからだ。
 ザイルは4段目までは届かず、4段目の上部から伸びる潅木をビレー点とする。ここからザック回収のため、懸垂下降しなければならない。バックアップを取り、入念にビレー点を確認。ここが崩壊すると、命がないだけに、後続には悪いが、時間を掛ける事にする。7時半無事、下降。1ピッチ、リードするのに、1時間近くかけてしまった。時間かかり過ぎ!2人は寒い思いをしていたのだろうな・・・。(直子さんは暖かそうでした。英明は寒かった〜。)
 セカンドに直子さんがユマールで登る。久々の岩場登攀&体調がイマイチということで、かなり苦労している。萩原も続いて、取り付き、フォローするが、直子さんは一段目の岩場で、腕がパンプしたようだ。二段目のチムニーも難しいが、頑張って登ってもらう。3段目は無事通過。ビレー点到着までに、やはり1時間近くの時間がかかる。最後は英明さん。ランニングを回収しなければならないから、大変だ。一段目より(ここは自家製アブミで「く」の字レストしながらバイルを灌木引っ掛けて立ち上がりました。)も二段目のチムニーにてこずったとのこと。(ここはバイルを穴に入れて恐る恐る登りました。)さすがはアルパイン派(つまり。下手ということです。了解!)フリー派の萩原はバイルも使わず、とにかく登る事に精一杯で、アブミなんて考えもしなかった。

 核心を越えた我々は、キノコ雪の発達した5段目以降、英明さん、萩原がツルベで、トップを交代しながら、登っていく。頂上直下で草付き雪壁の登場。通常は巻くようだが、我々は直登にこだわった。萩原は「五段の宮」で満足してしまい、不完全燃焼気味の英明さんがリードで行く。ここはビレー点を慎重に選びたい。英明さんの落とす雪ブロックが萩原と直子さんに容赦なく襲い掛かってくる。(前夜ジャケンにされた恨みです。うそ。)「もう雪ブロックは勘弁してよ〜」とブツブツ言いながらも、ザイルはどんどん進み、いっぱいまで延びる。セカンドに直子さん、最後に、プロテクションを回収しながら、萩原が登っていく。ちなみに、最終ピッチは50mザイルで頂上まで届かない。
 12時半、旭岳のピーク。頂上は風雪だった。旭東稜登攀終了の喜びを分かち合う余裕もなく、早々に主稜線を北上する。先行Pのトレースは風雪にかき消され、ルートが判然としない。好天ならば、赤岳に至る稜線を正面に見据えながらの快適なトレイルとなるのだが、展望も望めない。何度か支尾根に引き込まれそうになりながらも、地形図とコンパスを頼りに、ルートを選んでいった。
 13時過ぎ、無事、ツルネに到着する。11月にツルネの下見(出合小屋〜天狗尾根〜ツルネ〜出合小屋)をしておいて、良かった。迷うことなく、ツルネ東稜の下降に入る。樹林の中に入れば、そこは天国。安全圏に逃げ込めた事で、ホッとする。ここからは一気に下降。赤布がしっかりついているし、トレースもバッチリ。1時間半で出合小屋に到着する。ガチャ類を外して、美しの森へ。最大の核心は、最後の林道歩きという感じだった。