南ア・聖岳西面B沢広河原ルンゼの氷瀑
2004/1/10−12
メンバー:三浦大介(ぶなの会)、山岡人志(地球クラブ)
 遠山川西沢の源流域に展開する聖岳西面は忘れられたアルパインクライミングエリアの一つである。ここにはまだ未踏の大氷瀑が眠っている・・・下部の氷瀑ルンゼから上部の雪岩稜へと繋げる充実したアルパインルートを追い求め、一昨年の同時期、中島と出かけ、首尾よくいくつかの氷瀑を見つけたものの、残念ながら積雪条件が悪く、偵察のみで終わってしまった。
 今回、南アでやはり未踏の大氷瀑を探し続けている山岡人志氏(地球クラブ)をパートナーに、再度ここにトライすることになった。今回はまずまずの成果があり、B沢広河原ルンゼ(仮称)の見栄えのする氷瀑を登ることができた。
1月10日(曇り〜小雪)

 アプローチは遠山川を便ケ島まで延々と車で入り、そこから西沢尾根を登高する。標高2000mを越えると急にラッセルが深くなり、ワカンを車に置いてきたことを悔やむ。主稜線上にある2478mピーク付近が風も弱く快適なベースとなる。積雪にもよるがここまで丸一日みたほうがよいだろう。思った以上に雪が深く、明日のアタックが心配である。山岡氏は今年初めての本格的な冬山で調子はいまひとつであった。夕暮れまじかに天場着。


1月11日(晴れ)

 稜線を1時間ほど登り2580m付近から勝手知ったる左の小聖尾根に入り、これを忠実に下降する。悪場は無いが急傾斜で踏み抜きに注意する。積雪は1mくらいである。前回より少し雪が少ない程度か。途中で目的のB沢大滝が望める。遠目には凍っている様子だ。
 二俣手前でA沢側に落ちる急な雪の斜面を潅木を頼りに下る。ここからは未知の世界だ。A沢はほぼ雪に埋もれており、下部ゴルジュ内には氷瀑が掛っていた。A沢をスノーブリッジで渡り、B沢に入るとすぐに氷結したF1、40mが右に現れた。ここで登攀準備をする。
 F1の傾斜はどれほど強くないので各自フリーソロ(3級+)でこなし、次々と現れる小滝は踏み抜きに注意しながら慎重に進む。その先は広く開けた広河原と言われるところで、左手にはB沢本流の大滝90m、そして右手には広河原ルンゼの大氷柱が圧巻である。この辺りは傾斜が緩く、雪崩の心配は比較的すくないがラッセルがつらい。
 計画当初はB沢を忠実に遡行する予定であったが、まじかで見る大滝の氷結条件が意外に悪いので、山岡氏と相談し見栄えのする右の広河原ルンゼの氷瀑の方を登ることにする。ルンゼ内の氷瀑は三段で構成され、中段からはさらに3つに分かれている。どれも下部を含めると100mクラスの立派なものである。一番長く登りごたえのありそうな右の氷柱を選択する。余計な荷物を基部にデポし、軽装になる。
 山岡氏リードで広河原ルンゼ1P目の登攀を開始する。出だしはチムニー状で傾斜があり、その後は快適な斜度のアイスクライミングが続く。2P目の氷瀑の基部でスクリュービレイ。(4級10m+3級20m+雪壁15m)、2Pはつるべ式に三浦がリード。この登攀は垂直部が約30mありのぼり応えがある。レベル的には大谷不動程度の氷であろうか。周囲はジェードル風の岩壁に囲まれており、なかなかに壮観である。ここはところどころ右壁にステミングが使えて面白い。氷質は安定している。傾斜の落ちたところでスクリュービレイ。(6級40m)さらに最後の部分的に脆い、ややデリケートな3P目の氷瀑を山岡リードで登り、潅木で終了(4級+、20m)。内容的には甲斐駒の七丈の滝沢大滝上部に匹敵するだろうとは山岡氏の談。信頼できる氏と初登の喜びの握手を交わす。
 下降は50mロープで懸垂二回(上部は灌木、途中は、アバラコフ)。さらに登ってきたB沢F1-F3は右岸を巻き下ることができた。その後小聖尾根を根性で登り返し、20時には帰幕した。

(タイム:天場6:30―B沢取り付き9:30―広河原11:30―ルンゼ氷柱登攀開始12:00―3P目終了14:30−下降氷柱取り付き15:00―テント場20:00)


1月12日(晴れ)

 ゆっくり起床し、もときた道で聖をあとにした。帰りの林道では気のゆるみか新品のタイヤを鋭利な落石で傷つけてしまった。まったくもって要注意である。

 前回中島と目を付けた、本流の本命B沢大滝90mは今回は中間部の氷結が甘く登攀を見合わせたが、そのかわりにテクニカルな氷柱の初登攀ができたことはまさに「ひょうたんからコマ」というべきだろう。しかし3日で1本(偵察も含めると6日で1本)とはなんて能率が悪いことだ、と思われるかもしれない。それにもまして未知なるものを発見する喜びは大きい、というべきなのだろうか。何はともあれ、あの氷瀑が立ち並ぶ広河原の雄大な景色をみれたのは素晴らしいことだった。
 今回登らなかった広河原ルンゼ内の2本の氷瀑とともに、次回は是非B沢大滝〜左俣〜聖山頂のアルパインアイスの初トレースを狙いたいものだ。やるかい?中島くん。