明星山P6南壁マニフェスト
2003/11/01
L.三浦(大)、酒井



右岩壁方面の紅葉


明星山P6南壁と右ルンゼ奥壁。
左手に鷹巣ハング(マニフェストのライン)が見える。


 このルートはあの巧みなルーファイに特徴づけられる"フリースピリッツ"を作った森氏の次の大きな目標であった、南壁ダイレクトのフリー化を「宣言(マニフェスト)」という形で約束し、それをみごとに実現したルートとして広く知られている。81年当時、国内でもっとも難しいといわれたハードフリーの名ルートである。(参照:岩と雪)20年以上経った今でもその価値は薄れることはなく、アルパインにおける古典的なロングフリーの好ルートとして上級者のよい目標にされている。自分にとってもこのルートは登っておかねばならないルートの一つであった。
 機は熟したと思われた一昨年の秋に元会員のモトハシ・マサトとトライしたが、残念ながら中央バンドまでで中退してしまった。中退の理由はいろいろとあるが自身の集中力が続かなかったのが最大の原因であろう。
 それから2年が経過し、片手間にやっているフリーのレベルも少しは向上し、ようやく11の前半をコンスタントに登れるようになった。そこで今回、岩と雪のアルプス巡礼を経て一皮剥けた酒井氏を誘って、もう一度トライすることにした。

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 11月3連休の明星となれば必然的にクライマーが集中するのは目に見えている。マニフェストにはやはり1番手で取り付きたかったので金曜の晩はいつもより早めに出発した。日曜は込みそうなので土曜に登る算段である。(実際はというとなぜか土曜の方が人が多かった)高速を飛ばし午前0時過ぎに展望台近くの駐車場に着き、一杯やって就寝した。
 明朝まだ薄暗い5時に起床し、簡単な朝食を済ませ6時前に出発する。駐車場脇から下降し、飛び石伝いに小滝川を渡って取り付きへと向う。予想通り我々が一番乗りだ。登攀準備をしていると後続が次々とやってくる。せかされるようにして三浦トップで出発する。
1P目:(25m、3級)
 クラックの下のビレイ点まで3級のアプローチ。但しノーピンである。
2P目:(35m、5.8)
 つるべ式に酒井がトップで登る。クラックはカムを噛ませて突破、下がすっぱり切れ落ちたトラバースもすんなりと抜ける。私はまだ体は堅いのでここはウォームアップをかねてじっくりとフォローする。直上するクイーンズウエイと分かれるスラブのトラバースは前回は濡れていて難儀したところだったが、今回は乾いておりフットホールドがぴたりときまる。壁のコンデションは上々だ。
3P目:(35m、10b)
 下部の核心、小ハング越えのピッチ。前回はフォローでもA0になったところだ。ここは岩はしっかりしておりリングボルトも多いので精神的な負担は少ないが、ホールドが細かいところがあり、またルーファイとムーブの見極めも難しい。核心の2段目のハングをなんとかフリーで超える。体感は10c〜dくらいだろうか。もっとやさしい正解ムーブがあるのかも知れない。その上のスラブは快適だった。酒井は核心をワンテン、A0でフォローする。このピッチは少し時間がかかったので後続の名塚さん夫妻P(群馬岳連、エベレスト南西壁の勇者)に先を譲ろうとしたが、ペースは同じだろうからといわれた。
4P目(40m、10a)
 草付きのクラックを直上し、バンドから右のスラブへ。リードの酒井はさんざん迷ったが、ついに弱点を発見。みごとフリーで超える。さらに左上してカンテ下のブッシュのビレイ点へ。フォローは快適。
5P目(50m、5級)
 前回も三浦がリードしたピッチで傾斜の強い、脆いカンテを直上し、ルンゼ状に左へ回り込むもの。今回はさらに上部のビレイ点までザイルを延ばす。ここは浮石が多く、また上部の落石も集中する要注意個所だ。案の定、上から落石が降ってくる。
6P目(40m、5+)
 酒井リードで右手の大きいハングを回り込んで縦溝のスラブを直上し、中央バンドへ。タッチの差で先にいかれたクイーンズウェイのパーテーが落石を頻繁に起こすのには閉口した。中央バンドからは右に少しトラバースしてから、今度は左に脆い凹角を折り返して上部城塞下のビレイ点まで行く。
 ここで時刻は11時を少し回ったところ。12時を回っていたらまた中退のところだった。上部を継続することに決める。
7P目(40m、10b)
 ここが上部城塞をランナアウトのフリーで越える第二の核心のピッチ。上部城塞は一見したところ左のAJCCのハングの方が越えやすそうに思えたが、トポに従い右に向う。気合を入れ三浦リードで登り出す。クラック沿いに浮いたフレーク状の岩を右に渡るところがいやらしい。核心のハング越えは確かにランナウトするが、ムーブを見極め、腹を決めて登り出す。ここは安定しており余裕をもって超えられた。ハングの切れ目のクラックにナッツを効かせればさらに万全だ。
8P目(45m、4級)
 酒井リードでやさしいルンゼから右のピナクル経由で逆くの字で折り返して急なルンゼ下のビレイ点まで。
9P目(40m、4+)
 これも酒井リードでダブルの凹角から小さいミカズキハングを左から超える。やや脆いピッチ。核心スラブ下のビレイ点まで行く。
10P目(15m、10d)
 ここがルート上、最高グレードの10dが付けられているところ。しかしボルトがしっかり打たれているので威圧感はない。オンサイト狙いで三浦がリード。右上するバンドから核心のスラブへ行くが、ホールドがわからない。時間もおしており、あまり粘るわけにもいかず無念のA0となる。ここのリングボルトは安定しているので、思い切ってトライしてもよかったかなと思うが後の祭り。
11P目(45m、5.8)
 鷹巣ハング下をアンダーのトラバースで抜ける、カムを噛ませてじわじわムーブ。その先の右上バンドも脆くいやらしいピッチ。カムが大活躍する。ここは酒井が気力でリードしてくれた。
12P目(45m、3級)
 ようやく終わりが見えてきた。但しここから岩角が極端に鋭利になりザイル切断が恐ろしい。慎重に登りブッシュ帯へ。
13P目(50m、2級)
 あともう1ピッチ酒井がザイルを引きずるとようやく終了点に到着である。
時刻は17:00夕暮れが間近に迫っていた。先ずは酒井と完登の握手。右ルンゼの奥壁がまるで滝谷を思わせるような岩の墓場となって見える。
 小休止後すぐに後続の群馬の名塚さんPと南壁の頭から南山稜に向かう下降路探しを始めるがすぐに彼らを見失う。道も不明瞭でいったんビバークを考えるが、酒井はもう少し探したいと言う。ヘッデンで到着した3パーテー目のつづら山の会Pが下降路を知っているとのことで、後に付いていくことにする。しかし結局あちこちうろうろしたあげくにわからずじまい。見晴らしのある尾根上で20:30にビバーク体制にはいる。水は少ししかなかったがツエルトのおかげで暖かく、まずまずのビビであった。
 翌朝ようやく位置確認してこの尾根が南山稜であると判明。墓石稜を登ってビバークした4人Pとも合流し無事下降路を下山することができた。
 その後、駐車場で酒井と打ち上げをやっていると下降を諦め、明星山頂を回って戻ってきた名塚さん夫妻と再会した。どうもお疲れ様でした。

コースタイム
取り付き6:30〜中央バンド11:00〜10d核心14:30〜終了点17:00〜下降路探し〜20:30ビバーク /翌日:南壁の頭6:00〜南山稜下降〜松の木7:00〜駐車場8:00

<追記>
 今回、核心の10dのピッチは残念ながらA0になってしまったが、そこまではパーフェクトにちかい登攀で、緊張感あるフリーマルチを楽しむことができた。前回と同様、ルートにトップで取り付けたのもよかった。やはりルーファイはアルパインの楽しみの一つだ。後続Pの群馬の名塚さん夫妻(常陸さんの知り合いで奥さんが元気な人)とも楽しくやれた。マニフェストは左岩稜とともに南壁では落石は一番すくないよいラインだと思う。ただ下部城塞の凹角部、上部城塞の一部など部分的の脆い個所もあり、全般的にはデリケートなクライミングになった。
 ピッチ数は全13P。核心は下部の小ハング越えの10b(これはからかった、体感10c)、上部城塞のランナウトするハング越え10b、そして10dの細かいスラブ(残念ながらホールドが読めなかった)の3箇所である。また上に抜けてから確実に下降するためには、少なくても南壁の頭に日暮れ1時間半前には着いていることが必要だろう。南壁初見で終了点で日が暮れた場合は諦めてその場にビバークする方が無難。松ノ木までの南山稜の下降は急で右左と結構ルーファイがいる。(明るければなんてことはないが)
 その他、この時期、年度最後のアルパインでクライマーがここに集中している。この日はマニフェスト3P、クインズウエイ3P、フリースピリッツ3〜4P、のほか、左岩稜は数珠繋ぎになっていた。日曜日はこのほかのルートとして五月ルート、左フェース、正面壁ルートなどにも人がいた。落石、浮石はあるが、慎重に登ればそれなりには楽しめそうだ。ただし一番で取り付く必要があるだろう。次はムーブは簡単だがルーファイの楽しめるフリースピリッツにいこうかと思う。アプローチは至便。来年また、この時期に。でも核心の10dをフリーで登るためにもう一度自分はマニフェストにも来る必要がある?のかもしれませんが。みなさんもフリーレベルの向上を!
(三浦記)