谷川岳 幽の沢正面壁左フェースルート
2003/10/18
(L)三浦(大)、酒井

 年に一度は一の倉と幽の沢でのロッククライミング。これを毎年なぜか欠かすことができない。これといってとくに課題があるわけではないのだが、その醸し出す独特な雰囲気になんとなく吸い寄せられてしまう。

 過去2回ほど中退を余儀なくされ、Zピッチの崩壊の噂?により一度は自分の登攀予定リストからはずされた幽の沢・左フェースルートであったが、その後もなんとなく気がかりではあった。しかし最近登った、という話もちらほらと聞かれたので、3度目の正直としてもう一度行ってみる気になった。ちょうどぶな祭りの日ではあったが、このところの敗退続きを何とかしたいという気持ちが勝り、同じく左フェースに興味を示した酒井を誘っていってみることにした。
紅葉のこの時期、うかつにも交通規制があったことを忘れており、ロープウェイ駐車場から徒歩のアプローチになった。予定では15時にはぶな祭りに合流する予定だったが、実際は17時過ぎになってしまった。往復の時間短縮のためにはマウンテンバイクを持参すべきだったようだ。

 幽の沢下部の遡行は意外に濡れており、神経を使った。一箇所フィックスを使いゴボウとなる。滝を越えてからのカールボーデンのアプローチは岩壁上部左端部からの剥離崩壊による、真新しい岩雪崩の跡があり荒れていた。この剥離個所の同定を慎重に行なった。これはこのときにもしカールボーデンを登っていたら人生は終わっているかもしれないような大規模なものであった。幸い既成の各ルートには影響はなかった。
 核心のZピッチが自分の番になるように酒井リードで登攀を開始する。(実際は逆になってしまった。ルート図をちゃんとみてなかったのだ。)左フェースルートは各ビレイポイントに一つづつではあるが比較的あたらしいペッツルのハンガーボルトが設置されており心強い。ガイドがやったものだと思う。
 T1までのスラブのピンはいつもながら少なめ。スラブは少し濡れている。そこから草つきのやや目立つ凹角を左上し、Zピッチ手前のビレイ点につく。ここに以前来たのはもう5年前になろうか。そのときはボロのカンテを見過ごして直上してしまいG登攀クラブルートに入り込み、上部テラスからの敗退を余儀なくされたのだった。
 すぐ右に見えるカンテを乗り越すのが正規のラインだ。ボロのカンテにペツルが1本光っている。「いってみるか」
 この核心のZピッチはやはり脆かった。ビレイポイントから1mあがって右にトラバースしカンテを右上にのっこす。ここはホールドスタンスともに脆く、かなり神経をつかう。残置はピン1本とフレークにペツルがあるが、このフレークはいずれ剥離するであろう代物だ。
 乗り越してからはルートファインデングの能力が試されるところだ。ピンは少ない。主にボルトである。岩は緻密か脆いかのいずれかで追加ピトンは難しいだろう。右上ぎみに登ってからカンテ状を直登。そして今度は左上に折り返してペツルの打たれたテラスに抜ける。最後は結構なランナウトである。このZピッチのムーブはたしかに4+〜5−程度だが、脆い岩も多く、神経を使う。フリークライマーはけっこう泣きがはいるところだろう。
 あとは多少濡れたランペを登り、草付きのフェースを登って外傾テラスにでるのだが、ここは行き過ぎて間違え、左方ルンゼ側の安定したテラスに出てしまったようだ。そのため最後はスカイラインリッジを登らずに左方ルンゼ右のリッジ状を登る感じで終了点のバンドに出た。6時間、合計11Pの登攀であった。

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 左フェースルートは幽の沢中央壁の初登ルートでZピッチに代表されるその巧みなルートファインデングに感心するフリークライミングの好ルートである、と登ってきた今でも思うのだが、あのZピッチ部の悪さを思うとあまり人に奨められるルートではないというのが正直なところである。同じようなイメージで登る南稜フランケの核心部の方がよほど安定していると言える。

(コースタイム:ロープウェイ駐車場5:30−幽の沢出合7:00〜中央壁取り付き8:30〜Zピッチ下部10:00〜左ルンゼ合流点13:00〜終了点14:30〜堅炭尾根〜芝倉沢出合16:30〜駐車場17:45)