北海道知床半島 モセカルベツ川
モセカルベツ川〜オカバケ川下降

2003/07/12-15
村山日出夫(記)

7月12日(土)

茂瀬刈橋 16:20  BP 17:15

 中標津空港でレンタカーを借り、羅臼へ向かう。雨。
 茂瀬刈橋右岸の林道入り口に車を止める。雨の中、林道を歩く。林道は火薬倉庫の表示のある小屋の前で途切れる。少し藪を漕いで河原に下りる。水しぶきを上げて歩くと、魚が逃げ惑う。雨が強く降って来たためビバーク地を探すが、思いのほか平坦な河原は少ない。小滝をいくつか越えて、石がごろごろした河原に辿りつき、整地してテントを張る。
 夜中、雷鳴が響き、豪雨となる。増水が気になる。

7月13日(日)

BP 5:10  680m二俣付近 10:00  ホカイ川源頭 15:30

 雨がやまない。寒い。左岸に大きな洞穴があり、覗くとキタキツネがいた。びっくりしたのか、天井近くまで駆け登り、こちらの様子をうかがっている。
 釜を持った両岸つるつるのゴルジュを抜ける。小滝が続くが、登りやすく、険悪なところはない。20mほどの滝を越えると、開けたナメ床の沢になる。
 680m付近で雪渓に覆われた二俣になる。安物の高度計はいまいち信頼に欠けるが、左に入る。
 長大な雪渓を登ると、再び二俣になる。右俣は、30mほどの大きなつるつるの滝が懸かり、上部は急峻な雪渓が続いている。左俣にも2段の滝がかかり、上部の一段目が雪渓から現れている。周囲は岩壁。真中の岩場を登り、左俣に降りる。
 再び雪渓。雪渓の切れ目に10mほどの滝が懸かる。アイスバイルを頼りに越えて、延々と続く雪渓を詰める。
 再び二俣。右に行くか、左に行くか迷うが、結局左をとる。雪渓はやがて這松の藪に遮られ、悪絶な藪古儀を強いられる。這松といっても2m以上あり、枝が檻のように密集している。
 行けども行けども這松の海。南側に伸びているはずの縦走路にめぐり会えない。高度が1300mを越えると風雨が強くなり、寒くてからだの震えが止まらない。縦走路に出ることを断念し、左にトラバースしてオカバケ川右俣(ホカイ川と地形図には書いてある)源頭を目指す。ようやく雪渓に囲まれた平坦な花畑に出た。テントを張って転がり込む。寒くてたまらない。風も強く、テントが飛ばされそうになる。這松の藪漕ぎで体中痣だらけ。痛くて寝返りも打てない。天気がよければ、太平洋や国後島が見えるんだろうな。
 買ったばかりのラジオをつける。古い歌謡曲が流れて「青い山脈」なんかを歌っている。腹が減った。まともなものが食いたいな。温泉に入りたいな。もう下りたいな。 

7月14日(月)雨後晴れ

BP 5:30  オカバケ川出合 11:55 オカバケ川下流部BP 15:30

 テントを張ったすぐ目の前の雪渓を下る。藪になり、這いつくばって下降を続けると、沢らしくなってきた。
 10mほどの滝が断続する。懸垂下降で下っていく。体中痛くてスピードが上がらない。
 3つの滝を持ったゴルジュになる。左岸を大きく高巻く。獣道が縦横に走り、大きな蕗が群生する森を通る。
 再びゴルジュ。今度は、左岸の平坦な林を低く高巻く。河原に下るとオカバケ川との出合になる。オカバケ川は3mほどの小滝が懸かり、二俣はおおきな釜になっている。バテ気味なのでザックを下ろし、休憩がてらに竿を出す。釣れないなあと思いつつ、ふと脇を見ると、自分が下りてきた高巻ルートをヒグマが辿ってきて、河原に大きな身体を現した。黒っぽくて丸い体だ。眼を会わせる間もなく、ヒグマは大慌てで下流に駆けて行く。
 ここはやばいかも、と思いつつ竿をたたむ。ヒグマの後を追って下降開始。よく見ると、ヒグマの糞がいっぱい。川はようやく開けてきて、蕗の林が両岸に広がる。河原の砂地にはヒグマ、鹿、狐の足跡だらけ。川にも魚がうようよいる。早く下りたいという気持と、釣をしてのんびり過ごしたいという気持が綱引きをして、結局標高100mほどの広い河原にテントを張り、釣三昧。焚き火を燃やし、釣った魚を焼いたら、火が強すぎて火葬にしてしまった。

7月15日(火)

BP  5:30  朔北橋 8:05  茂瀬刈橋 8:30

 広い河原をだらだらと歩く。途中釣をしたり休んだりして、ようやく河口近くの橋が見えるところまで来る。昆布か何かの加工工場がある脇に上がり、渓流靴を脱ぐ。薄日が差してきた海には、思いのほか間近に国後島の影が横たわる。
 道路を茂瀬刈橋に向かって歩く。腹が減って目が回る。車に戻ったら、何はともあれ温泉だ!

(付録)知床の温泉
@ セセキ温泉
相泊の少し手前。海岸の岩場にある。無料。潮の香りが強い、ワイルドな温泉。フナムシ、蟹を踏み潰して岩の浴槽に入る。熱い。混浴。脱衣場無し。ギャラリー多数。観光バスで大挙見学に押し寄せる。それでも、とても気持ちよかった。周囲ぬるぬる、要注意。
A 相泊温泉
セセキ温泉をブルーシートの仮小屋で囲い、男女別にしたような温泉。脱衣場もついている。無料。泉質はセセキ温泉と同じみたい。目の前は海。浴槽は木。フナムシ無し、ぬるぬる無し。
B 羅臼温泉熊の湯
羅臼から宇登呂に向かう、知床横断道路の道の左脇にある。羅臼キャンプ場の向かい側。無料。岩の露天風呂。男女別。よく手入れされていてきれい。硫黄臭のある透明な温泉。結構熱い。渓流沿いの森の中にあり、とても気持が良い。洗練されたワイルドさが魅力。
C 岩尾別温泉
岩尾別のホテルの脇の登山道にある。無料。3段になった露天風呂。真中が熱い。透明。脱衣場無し。周りの苔むした岩の上でパンツを脱ぐ。登山道を人が通るので、あまり落ち着いて入れない。雨が降ったら、パンツも濡れてしまった。
カムイワッカの滝は時間切れで行けなかった。残念。