谷川・幽の沢左方ルンゼ
2003/03/15
L三浦大−佐藤嘉彦

03/3/15(土、高曇、冷え込みは無いが気温は上がらず)

 冬季の幽の沢左方ルンゼは大滝の氷瀑を有するアルパインアイスの好ルートとして知られている。ルンゼ内にびっしりと青氷が張りついた魅力的な写真をみてからは、一の倉沢の3スラとともに是非登ってみたいと思い何度か行く機会を伺ってきたが、なかなかよいコンデションやパートナーを見出せずにいた。今回、夏にペルーアンデスに単独で挑戦する嘉彦君のトレーニングに兆度よいと思い、彼への私からの餞別のつもりで誘ってみたところ、彼も是非にということで行くことになった。
 冬の幽の沢に入るのは初めてであり、入念な天候チェックを行う。先週末から継続的に降雪があり、天神平スキー場でも新雪は70cm増えていた。それでも木曜と金曜に好天があったので雪は比較的落ちついているのではないかと予想する。天気予報では土曜日は曇りで午後遅くから南岸低気圧の影響で崩れ出すということであった。チャンス到来である。ルンゼルートは雪崩れが一番怖い。曇り空で気温が上昇しないことは願ったりである。
 金曜の晩は早く駐車場に行って寝るつもりだったが、結局遅くなってしまい、3時間ほどしか仮眠ができなかった。やはり寝不足の登攀はこたえる。登攀日を日曜にしたほうがよいのかなとも思う。もちろん日帰りできればの話ではあるが。
 遅くとも午前3時には出発の予定だったが、準備に手間取り4時前に慌てて出発する。指導センターにたちよると既にかなりの計画書が提出されており、幽の沢へも数Pの提出があった。トレースは既にかなり在りはかどる。先行のラッセルもくるぶしからすね程度でそんなにはなかったようだ。
一の倉出合からから幽の沢への道は下降するワカンのトレースを追ってしまい、ミス。なんと湯檜曽川直前まで行ってしまった。仕方ないので我々もワカンを着け、川沿いからまわり込むことにする。
 嘉彦は体調が悪いのか遅れる。聞くと寝不足で今日はあまりペースがあがらないという。既に夜が明けてしまった。まあ、今日は高曇りなのでゆっくり登っても雪崩れ等のリスクはそんなに変わらないだろうとたかをくくる。
 出合からついている2Pのトレースを追う。いつも思うことだが夏の谷のイメージと冬の谷のイメージはかなり違う。冬は大量の雪で谷が浅く感じられるのだ。展望台のカーブの手前でワカンをデポし、アイゼンと登攀具を身につける。
まわり込むと幽の沢の全景が現れる。左俣と右俣を分ける中尾根も不明瞭なくらい下部は雪が大量に埋まっている。左には中央ルンゼの大氷柱、正面に雪をかなりまとった正面壁と目的に左方ルンゼは上部のみが望める。その右に雪のルンゼと化した右俣リンネを挟んで右にはV字左のカーテン状の大氷柱が目を引く。夏と同様、一の倉とは異なり開けた明るいイメージだ。気になるのは雪のコンデションだがは新雪が積もっているがしまりかけているように思える。既に正面フェースに1P、そして我々が行く左方ルンゼ取付き付近に1Pいる。
 トレースをたどり左方ルンゼの取付きに到着する。ここはシュルントが開いており、アンザイレンで登攀開始である。取付きには左フェースルートを予定している風来坊の大野さんPがいた。彼らがシュルントを越えてから、登攀を開始する。1P、三浦リードで不安定なシュルントを越え、左方ルンゼ入り口に向かって右上する。ゆるい雪壁の登り。SAビレイ。ここで初めて左方ルンゼを確認する。ルンゼ内には大滝と思われる氷バクがみえる。ガイドの写真より多少雪が多めだが、氷も適度にみえる。コンデションはわるくなさそうだ。いけそうな予感がする。
 2P、つるべ式に嘉彦がルンゼに向かってゆるい雪壁を進む。SAビレイ。ここまではピッケルのシャフトが有効。雪質は比較的安定しているようだ。3Pさらに大滝に向かってルンゼを進む。ここの雪は柔らかく、一瞬いやな予感がはしる。さらに進むと雪の下に氷がある部分が現れだし、ピレオトラクションが使える。途中いやなシュルントをのり越え、さらに進んで氷でスクリュービレイ。目前には結構りっぱな大滝が迫る。
4P目は大滝の登攀だ。徐々に傾斜が立ってくる。ここは完全なアイスクライミングになる。大滝は左の傾斜の強い凹角状を登る。ほぼ垂直である。ステミングのフットワークを決め、なかなかのムーブが楽しめる。中間支点4本でこれを越える。上部も雪が部分的にかぶっており、なかなかデリケートであった。思った以上のアイスクライミングに少し興奮。嘉彦も真顔で快適?にフォロー。5P目、さらに三浦リードで大滝の上部を微妙なクライミングで抜ける。これで核心は終わった。この先、傾斜がやや落ちるが、まだまだ気が抜けない。
 6P目、嘉彦に行ってもらう。以降はつるべになる。ここからはアイスクライミングとスノ−クライミングが交互に現れるような感じである。中間支点は雪から氷を丹念に掘り出して取る。ところどころ急傾斜である。ビレイポイントは左壁でハーケン2枚。7P、部分的に現れる氷をうまく支点に使って登る。傾斜の強いところあり。スクリュービレイ。このとき上部からスノーシャワーを浴びる。よく観察するとルンゼからでは無く、右の側壁からであったので一安心。8P、嘉彦。傾斜の強い悪いやわ雪をだましだまし登る。途中、スノーバーで支点をとる。(これは結構利いていた)。氷ビレイ。9P、上部が明るく開け、そろそろ終了点が見えてきた。ルンゼ内の氷を拾って登る。10P、嘉彦。氷から最後は雪壁をあがりきって姿が見えなくなる。コル目前でSAビレイ。一応ここで左方ルンゼは終了である。反対側に左俣、3ルンゼ、一の倉尾根とさらに後方には3スラ方面が見える。
 ここで嘉彦とがっちり握手、といいたいところだが、ここから雪が深くかなり不安定になる。つるべ式に11P、雪崩れそうな中央壁の頭への急雪壁を三浦が行く。4つ足で雪壁を這いつくばるように登ると、突然足元が崩れる。いやな予感。シュルントだ。覗きこむと横一線に幅1m、かなりの深さで切断されている。これには焦った。この大斜面ごと崩れたら我々はいっかんの終わりである。トラバースもできない、選択の余地無し。これを乗り越える以外に道はない。衝撃をあたえないように、易しくブレードを使いトンネルを掘っていく。向こう側のなるべく遠くにダブルシャフトをつきたて、ソロリとのりこむ。神頼み。乗り移り成功。すばやく上へ上へと這い上がる。ここは生きた心地がしなかった。ふと下をみると真下にちゃんとしたコルがある。そこまで行った方が安全だったかもしれない。ロープいっぱいで急斜面を切り崩しSAビレイ。
嘉彦がシュルントを無事通過し、さらに1Pで中央壁の頭に到着。安全地帯に入る。ようやくすわって一息つく。嘉彦とがっちりと完登の握手。満足。時刻は既に5時。ここまですべてスタカットできたので時間的にはこんなものだろうか。チャンスをうまく掴めた。左方ルンゼは予想に反せず、冬の登攀技術をフルに使えた三ツ星の好ルートだった。
 ここから先は正面フェースPのトレースがあって助かった。これをたどって堅炭尾根からベータ−ルンゼをクライムダウンで慎重に下降し、展望台には19時に戻ることができた。

 これで今期の私のアイスクライミングはすべて終了した。今年もなかなか充実した成果が得られた。ぶなの会でもアイスクライミングは徐々に浸透してきており、うれしいかぎりである。来年のこの時期はまた谷川でどこかのアルパインアイスルートを登ることになるだろう。会でも近いうちに谷川周辺の氷雪ルートでの集中山行ができるようにしたいものだ。来年もぶなはアイスクライミングが熱い!

(コースタイム:指導センター3:50〜一の倉沢出合5:00〜幽の沢出合6:00〜左方ルンゼ取付き8:00〜中尾根とのコル16:30〜中央壁の頭17:30〜ベータルンゼ入口18:10〜展望台〜幽の沢出合19:10〜登山指導センター20:45)