11月に思うこと
牧野
 毎週末、何かに追われるように山に通い続ける私にとって、11月は、ほっと一息いれられる時である。沢登りにはもう寒いし紅葉も終わってしまった。近郊の低山ならまだ紅葉の見られる所は有るだろうが中部山岳や東北、上越と比べればパッとしないことは分かっているので、今一つ食指が動かない。昔は出来るだけ早く初滑りをしようと立山や天神平によく行ったものだが、最近はあまり焦って出かける気分にもならない。11月後半の連休の立山は条件に恵まれればパウダーが味わえる事もあるのだが、最近は雪不足だし、スノーボーダーとテレマーカーでものすごく混雑している。3年前久し振りに行ったときには、見渡す限りの雪の有るあらゆる斜面がシュプールだらけであった。アルペンルートのあの乗り換えや高い料金も考えると二の足を踏んでしまう。そんなわけで11月はちょっとしたオフであり、1年間の登山を振り返ったり、今シーズンの計画を立てたり、部屋の整理をしたりするのにいい時期なのである。(だから総会も11月にやりましょう。4月第1週は山スキーのハイシーズンなのです。)しかしそう思って週末、家にいても結局はだらだらと過ごしてしまうのは年のせいか、元々の怠惰な性格のせいであろうか?

 さて、この1年間の登山(ないしアウトドア活動)を振り返ってみよう。昨年12月、多くの会員が冬合宿を目指してトレーニング山行に燃えているころ、年末年始は家族スキーにとられてしまう私はスロースタートを切った。天皇誕生日の連休に桧枝岐でかみさんと一緒にクロスカントリー・スキーのトレーニング。XCスキーは最近、共通の趣味を持とうと考え、かみさんに仕込んでいるのだ。年末年始は家族で野沢温泉でスキー。このごろは、アルペンスキーでは退屈してしまうのでゲレンデではテレマークスキーをやっている。新調したやや幅広のテレマークスキーで新雪に突っ込むがまだまだ道は遠い。年明けからは毎週末、雪山に通う。テレマークスキーとXCスキーのトレーニングが半々。2月第一週は土曜日にテレマークで安達太良に登り、日曜日は裏磐梯でクロカンの大会に出る。2月8日、クロカンの集大成の札幌国際スキーマラソン。50kmを3時間47分で大幅に自己ベストを更新。かみさんも10kmを完走した。XCスキーはこれでお終い。翌週は西ゼンを山スキーで滑降。最高のパウダーが楽しめた。

 3月はぶなのメンバーと西吾妻の大沢下りから始まる。温泉泊まりで米沢牛のすき焼きを味わう贅沢山行。第二週は白馬でガラガラ沢のパウダー(山スキー)と小日向山(テレマーク)の二本立て。第三週はついに風邪を引き、お休み。春分の日の連休は家族スキー。絶好の山スキー日和が恨めしい。最終週は荒沢岳の裏側を山スキーで滑りまくる。先シーズンの白眉であったが、テントを飛ばされたり、ヘッドランプを忘れたりの冷や冷や山行でもあった。

 4月はヒマラヤで知り合った北海道の岳人、中村さんの案内で十勝連峰へ。前富良野岳と美瑛岳に登頂。美瑛岳では表面クラストした雪にテレマークスキーではまだ力不足で、派手に転倒して首を痛めてしまった。超割航空券を使い、2泊3日で行ったが、いつか一週間ぐらいかけて北海道の山を滑りまくりたいものだ。GWにアラスカのルース氷河に行くことにしたので、次の週は栂池でアンザイレンしてスキーで歩いたりクレバスに落ちた時の救助と脱出訓練を行なった。快晴の日曜日、後立山連峰を指をくわえて見ていなければならなかったのがもったいなかった。

 GWは4月26日から5月6日の日程でアラスカ・ルース氷河へ。メンバーは東京スキー山岳会の島津さんと日本に住んでいるフランス人のマルタンの三人。島津さんが計画し、現地でのホテル、タクシー、セスナ機など日本からインターネットで手配済み。現地での諸々も英語力抜群の二人に全てやってもらってしまった。島津さんは正月、GW、お盆と年三回は自分で計画して海外山スキーに出かけている人だ。
 マッキンリーの登山基地でもあるタルキートナから40分のフライトでルース氷河に降り立つ。ここは本当はクライミングのメッカで、広大な氷河を縁取るように大岩壁や尖峰がそそり立っている。その中でBCから日帰りで山スキーで登れる山はわずかしかない。今回頂上を踏んだのは2042mの無名峰、エクスプローラーズ・ピーク(2603m)、Mtディッキー(2909m)の三つ。二週間近くかけていった割にはちょっと物足りないが、雄大な氷河の眺望は何物にも変えがたかった。マッキンリーの雄姿も目の当たりにして、次はあの山と決意を新たにする。
5月第二週は針の木雪渓の大沢小屋をベースに蓮華岳、針の木岳、スバリ岳を滑る。山スキーを始めて長いが、針の木雪渓に入るのは初めてだった。スバリ岳東面ルンゼは、初滑降かもしれない。翌週は日帰りで白馬岳へ。二号雪渓に頂上直下から滑り込む。出だしは40度以上あったがすぐに大斜面となりシーズン最後の滑降を楽しんだ。次の週も立山に行く予定だったが、天気が悪そうで中止。これで雪のシーズンを終えた。前半はテレマーク、後半はアルペンが多かった。テレマークではまだ急斜面や深雪、悪雪に歯が立たない。しかしアルペンでは物足りなさを感じてしまう。最近のジレンマである。

 休む間もなく沢と釣りのシーズンに突入。岩魚33匹、ヤマメ2匹。大物は御神楽沢での岩魚33cm。どうも最近、沢のことを思い出すのに滝やゴルジュがどうだったかより、釣れたかどうかになってしまう。下山遅れで心配をかけることが多かった。反省。来シーズンは飯豊・朝日か奥利根のどこか手ごたえのある沢に行ってみたい。

 8月の後半はカミさんとニュージーランドとオーストラリアに行った。オーストラリアでカンガルー・ホペットという42kmのXCスキーレースがありそれに参加したのだ。札幌国際スキーマラソンもその一つになっているワールド・ロペットという長距離XCスキーの大会が世界に14あり、その完走を目指しているのだ。カミさんは7.5kmにエントリーした。大会当日はものすごい吹雪で凍傷になりそうなくらいだった。主催者の判断で途中で21kmにレースが短縮されたので、ほっとした。おかげで何とか完走できたがまたいつか参加して今度はしっかり42km走らなければと思う。かみさんもてっきり棄権したとばかり思っていたらしっかり完走していた。XCスキーレースだけでは日程が余ってしまうのでその前にNZでヘリスキーをやった。深雪の苦手なかみさんも最近はやりのファットスキーを使えば楽しめるとふんだのだ。初日は何とかなったが、二日目は雪が悪く苦労していた。今年のNZは例年にない雪不足でふかふかのパウダーは望めなかった。これならよっぽどカナダの方が楽に滑れると考え、日本に帰ってからすぐ、ためらうかみさんを説得し、正月のカナダCMHへリスキーを申し込んだ。(CMHへリスキーとは何ぞや。これは後日報告します。)かみさんが途中で投げ出さないか心配だが、今、少しづつ一緒に走ったりしてトレーニングしている。

 さて今シーズンの山スキーであるが、先シーズン出来なかった2〜3泊の縦走をしてみたい。また、ぶなに山スキーをもっと広めたいとずっと思っているがなかなかうまくいかない。ぶなはオールラウンドに雪稜、氷瀑、山スキーとやるので、スキー技術をみがく暇がない。ぶなの多くの人にとって山スキーは年に1〜2度やるかやらないかの春の風物詩に過ぎないのだ。スキー技術が上達すれば地図を見て良さそうなところにラインを引けばほとんどその通りの山行が出来る。ガイドブックに載っているコースばかりが山スキーではない。100mの新雪の斜面を100回、転んで下りてくるか、パウダー天国を味わうかも技術次第なのだ。12月から2月にかけて初心者でも参加できる山スキー山行を何回かやりたいと思っていますから、声をかけてください。

 最初はエッセイ風にまとめてみたいと思って書き始めましたが、個人山行を羅列するだけになってしまいました。全然、巻頭言にはふさわしくない文章になってしまいましたが、書き直す時間もありませんので勘弁してください。
「山毛欅」2003年11月号