山菜採りの楽しみ
佐藤勇

1.山菜採りの第一歩

・写真で姿かたちを覚えよう
 山菜を知っている人と一緒の山行がよいのですが、まずは、確実に知っている山菜から試しましょう。フキ、フキノトウ、アザミ、タラノメ、ウドなどです。タラノメにはトゲが、ウドには茎に粗毛が生えています。
 いかにも毒々しい姿かたちや色は、食欲をそそりません。薄暗い草薮に生えているマムシグサはその名前のとおり茎の表面がマムシの模様になっていてギョっとします。ヘビイチゴも旨くないらしい。
 キノコと同じく食べられる種類を確実に増やすことです。手ごろな山菜図鑑や調理法を記載した本が出版されています。
 食べてはいけない代表的な山菜は、新聞でも騒がれたトリカブトです。食べられる山菜と間違えられるものとしてオオバギボウシに似たコバイケイソウで、山渓7月号に集団食中毒が報じられています。ドクゼリ、ウバユリに似たヒメザゼンソウ、恐ろしい名前のハシリドコロ(狂い走り回る)などです。
 山菜は土地々々でその呼び方が違うことがあります。山菜が地元に密着していることがわかろうというものです。代表格はクサソテツ(コゴミ)です。私の田舎ではオオバギボウシをギンブキ、イヌドウナをウトブキ、コシャクをヤマニンジン、ウワバミソウをミズナまたはヨシナと呼んでいます。チャンメロとは何だか判りますか。
・旬
 旬をはずすと硬くなって食べられません。旬にはその時期の短いものと、長いものがあります。ミヤマイラクサやタラノメは、収穫時期が限られます。だいたいの目安は、雪が消えてからの日数です。
 成長中ならアザミやウワバミソウも大丈夫。
 沢ヤのよいところは、季節を遡るように沢を登るので、入渓地点は7月でも稜線近くの谷間は4月の雪解けの頃です。コゴミの思わぬ収穫もあります。
 サンショの実は収穫時期が2度あります。春の佃煮と秋の粉サンショです。
2.収穫の心得

 収穫にもルールがあり、この掟を破ると血を見ることにもなりかねません。

・私有地や入会地に入らない
 所有者のはっきりしているらしい場所には入らないこと。例えば竹林が荒れていて持ち主はいないだろうと勝手にタケノコを掘ることがあります。所有者が高齢になったりして世話ができないだけですし、遺棄された田畑の土手でももちろん所有者がいます。種を撒いた畑と畦の区別のつかないハイカーがいます。人里に近い場所での収穫はなるべく遠慮しましょう。
・自分の家の庭ではない
 地元の人は、ヨソモノが山菜を採りに来ることを快く思っていません。家の中をわがまま勝手に踏み荒らし、食べられるものなら手当たりしだい収穫し、あつかましいドロボーじゃないかと感じています。私も田舎に帰れば同じです。林道を下ってくる車のトランクを開けさせたい気持ちになるときがあります。
 食べられるかどうかを地元の人に聞けば教えてもらえるでしょうが、決して心を許しているわけではありません。
 山奥から採ってきても、地元の人たちの感情に配慮し、ザックの中に入れて目立たせないようにしましょう。
3.料理の幅を広げよう

・山菜の楽しみは料理
 ある程度は山菜ごとに調理方法は決まっています。ウド、アサツキ、オオバギボウシやノカンゾウなどは酢味噌和えやヌタに、コシャクは胡麻和えや白和えがおいしい。ミヤマイラクサ、イヌドウナなどはおひたしで歯ざわりを楽しめます。テンプラはどんな山菜でも大丈夫。ウドの先端のやわらかい部分は、タラノメより数段おいしい。
 新鮮なうちに食べることです。したがって食べきれないほど収穫しないこと。ウドの茎の皮は捨てずにキンピラ風味の油炒めにすると思いのほかおいしく、酒が進みます。捨てるところを少なくして、できるだけ食べつくしましょう。
 エグ味の取り方はとぎ汁や木灰に漬けるなどいろいろあるので、本やインターネットで確認すること。ウドはそのエグ味がご馳走です。
 しばらく保存するなら、新聞紙を濡らして包み、ビニール袋に入れて冷蔵庫で保存する。食べられるということは、成長が盛んということで、収穫するとすぐぐったりします。茎を食べるなら、収穫した場所で葉を千切り取るなど鮮度を長持ちさせる工夫も必要です。
4.山の幸に感謝を

・来年の収穫のために
 フキノトウ、ツクシ、アサツキ、ヨモギ、セリなどは、早春の家族総出の摘み草として楽しみの一つです。これらは里の小川や土手、まだ鍬の入らない畑などの毎年同じ場所に群生していて、容易に収穫できます。
 しかし、多くの山菜は急斜面や谷間にあります。雪崩に運ばれた落ち葉や腐葉土が堆積した場所に生えるウドは太く、泥壁の高巻中に見つけるゼンマイは採りにくい。どの沢のどのあたりに何が生えているかを記憶しておけば、翌年も収穫できます。
そして、その場所は人には話さず、自分の秘密にしておきます。山菜のひとり占めです。悪気があるわけではなく、一人だけなら来年も収穫できます。
リフト代金の元を取るまでリフトに乗るスキーヤーの心理と同じく、手当たりしだい収穫する人がいます。
 コゴミなら割り箸一本の太さ以下は収穫しないこと。細いものは去年採られた後に伸びたものです。もう一年待って来年になれば太くなる。タラノメは、一番芽を掻くと、二番芽は伸びますが、これを採ると親木は枯れてしまいます。食べても二番芽はまずい。ヤマイモは掘ったら穴を埋めることと、地表に近い部分をわずかに残しておけば、再び成長するといわれています。
 たしなむための山菜です、一度に食べきれないほどの収穫や、来年はもう来ないから、後はどうなろうと採ってしまえ、はやめましょう。
・森も木も見て収穫を
 少しでも収穫を増やそうと、山の奥へ、山の奥へと入っていきます。
 熊との遭遇、滑落事故、迷いなど突然のアクシデントは結構発生します。深い山に入るときは同行者が必ず必要です。
 夏から秋にかけては、果実の収穫時期になります。ノイチゴ、クリ、クルミ、アケビ、マタタビ、サルナシ、ヤマブドウ、ムカゴなどが楽しめますが、この季節は越冬準備のケモノたちも真剣です。彼らの縄張りに入っていることに気づいてください。マムシやハチにも要注意。
 山道や渓を歩きながら、山菜の収穫を楽しみませんか。焚き火にあたり、旨い酒を飲むためにザックに少しの醤油と油を忍ばせて。

(6月25日の例会テーマをもとに作成しました。)
「山毛欅」2003年7月号